最大の目的は“授業改善”
子供たちは,カメラ片手に校長がフラっと授業中の教室に入ってくることにはすっかり慣れていますし,授業者の先生たちもそれほど特別なこととは感じていないと思います。これは本校が長年にわたって授業を大切にしてきた文化的風土を象徴することの一つといえます。
でも,管理職が2人そろってバインダーを手にあれこれメモしながら1時間貼り付いているとなると,少しばかりかしこまった雰囲気になってしまいます。授業者にはちょっぴり緊張を強いてしまっているかもしれません……。
「授業観察」の一番の目的は,冒頭でも触れた授業後の“振り返り”を通して,授業改善に資するということです。
初任の先生は研修期間を経ることなく,すぐに子どもたちと向き合い,日々の教科指導に当たらなければなりません。また,教科担任制の中学校(2〜3回は改善しながら同じ授業を繰り返すことができ,概ね3年間で一巡する)とは異なり,小学校の場合,経験の浅い先生たちは,日々の授業がどれも一発勝負になります。加えて,その学年,教科や単元等を次に経験できるのは何年先かわかりません。
また,小学校は空き時間が少ないので(中学校比で担当授業コマ数は約1.3倍),先輩の授業を見て研修する余裕もありません。
このようなことからも,学年チーム内での先輩からのアドヴァイスや日々の写真取材(と広報)に加えて,この「授業観察」のような機会は,授業改善をする上で大きな意味を持つことになります。
コロナ禍下で授業はどう変わったか
毎年,図のようなシートを用いて定点で記録を行っていくと,特に経験の浅い先生たちの授業が,日々の指導実践を重ねるごとに改善されていくことがよくわかります。
コロナ禍下でちょっと様子が変わったのは,世代や経験年数に関わらず,今年ならではの新たな試みが見られるようになったことです。臨時休業期間中に蓄えた様々な教材の導入や,新学習指導要領の完全実施に伴って新しくなった教科書活用など,これまでWeb上で細切れにお知らせしてきたことを,まとめてみます。
▶ 資質・能力をベースにしたカリ・マネ
臨時休業で少なくなってしまった授業時間をいかに有効に活用するか……。否応なしに標記のことを意識するようになりました。教科書を順番に教えていけばよかったこれまでの感覚から脱却して,「この資質・能力を身に付けさせるためにどの教材や題材を組み合わせれば良いのか」という意識の転換を図ることができたのです。
低学年ではもともと教科等の分化が進んでいないので,複数の教科を合せて扱ったり学習内容の連続性を持たせたりする工夫が見られました。中高学年では総合的な学習の時間や学校生活,行事等と往還させたり関連付けたりする試みが多く実践されました。
また図工などでは,いわゆる“定番”となっていた題材を繰り返すのではなく,新しい材料や技法を導入する試みもありました。
▶ デジタル版教科書の活用
今年度から教科書が新しくなり,QRコードがついたりデジタル版が提供されたりするようになりました。これをそのままスクリーンに映写しつつ,子供たちのノートと同じ罫線の入ったホワイトシートを併用して,板書を構成する試みも,今年度から始まりました。
このことによって,教材準備や板書などにかける時間を節約して授業効率を高めることが実現できます。それだけでなく黒板と子供の手元に同じ環境を用意することができるため,ユニバーサルデザイン(誰にとっても参加しやすい授業の環境づくり)の視点から見ても極めて有効,ということになります。
▶ ショートコンテンツ(動画など)の活用
休業期間中に紹介されたNHK for スクール等のショートコンテンツを活用する頻度が,格段に高くなりました。録画も編集も必要とせず,必要なシーンだけを必要な時に活用できるため,授業の流れを損なうことがありません。
動画だけでなく,筆順おさらいアプリ等も活躍。インターネットと教室のスクリーンが直結する光景が普通になりました。
▶ 学校外の組織等との連携
コロナ禍で校外に出られなくなったことの代替というだけでなく,社会に開かれた教育課程の実現を意識しながら新たな試みを進めました。外部から講師を招いたり,地域に発信,地域と連携したりする授業を,今後も一般化させていきます。